My important place【D.Gray-man】
第9章 黒の教団壊滅事件Ⅲ
「食卓ならファインダーの野郎達と囲んでんじゃねぇのか」
「あー…うん。まぁね、時々」
そういうものとは違うかな。
仲間と食べる食事も美味しいけど…私は"家族"と食べる食事を感じてみたい。
自分の為だけに作ってくれる料理って、どんな味なんだろう。
私は、そういう家庭の味みたいなものを知らない。
「違うけど。まぁ、そういうことで」
「面倒だからって説明を省くな」
「じゃあ炊き立ての真っ白ご飯で」
「じゃあってなんだ。いい加減につけ足すんじゃねぇよ」
いちいち律儀にツッコんでくれる神田に、苦笑混じりの笑みだけ返す。
──両親は共に、教団に身を捧げていた人達だから。
幼いうちに、私は遠い親戚という家庭に預けられた。
『貴女は、うちの子じゃないんだから』
『世話してあげているのよ』
『しっかり働いてちょうだい』
小母(おば)さんの口癖は、いつもそれだった。
『はい』
『いいえ』
『すみません』
私に許された発言は、大体はそんなものだった。
それでも、ちゃんと働けば食べるものを与えてくれた。
それが小母さんの家族が食べるものと、随分違っていても。
冷えたスープでも、硬いパンでも。
与えられたものだから、それは私には当たり前の食事だった。
ただ、一つ。
いつも家の一番暖かい場所で食卓を囲む、小母さん達家族の笑い声が、とても楽しそうで。
その輪に私も入ってみたい。そう、いつも憧れていた。
一人で食べる食事より、きっと美味しいんだろう。
経験がないから、ただただ憧れた。
そんな中、この黒の教団に入団して、初めてジェリーさんの料理を食べた時。その美味しさに驚いた。
食事は冷たいばかりじゃなくて、温かいものなんだと知った。
硬く、ぱさぱさしているばかりじゃなくて、柔らかくて味あるものなんだと知った。
ああ、私が知っている食事は随分"普通"とは違ったんだと。その時、初めて知った。
そんな自分を可哀想だなんて思ったことはない。
自分を悲観するのは嫌いだ。
悲しんだって、誰も手を差し伸べてはくれないし。
それに哀れみや同情が欲しい訳じゃない。
こうして教団で、美味しい食事を口にできているんだから。
今は、きっとそれでいい。