My important place【D.Gray-man】
第40章 パリの怪盗
──ガチャ、
安全装置を外す、重い金属音。
その音が背後で響いて、思わず動きを止める。
「そこまでだ。コイツが何やったかしんねぇが、俺の連れだ。手荒なことはやめてもらおうか」
背後から届いたのは、低く掠れた声。
…この声知ってる。
昨夜この赤スーツの人と一緒にいた声だ。
ゆっくりと振り返る。
見えたのは、予想していたものだった。
真っ黒な穴を見せる、リボルバー型マグナムの銃口。
それが迷いなく私の顔面に突き付けられている。
「其処から退きな」
くいっと顎で退くように促される。
一部の隙もなく銃を構えている相手に、下手な行動は取れない。
渋々押さえ込んでいた手を離して体を退く。
離れて見れば、その人は派手な赤スーツの人とは対照的に全身真っ黒な姿をしていた。
黒スーツに黒ネクタイ。
目深に被った帽子も真っ黒。
もみ上げから顎まで覆う髭も真っ黒だから、全身黒尽くめ。
「いっちち…腕が折れるかと思ったぜ。さんきゅー次元」
腕をぷらぷらと振りながら、身を起こして座り込んだ彼が黒尽くめの男性を見上げる。
ヘラヘラと笑う緊張感のない顔に、男性はケッと愛想悪く返した。
「こんな小娘にやられてんじゃねぇよ。ルパン三世の名が泣くぜ」
………え?
「………ルパン…三世?」
ルパン三世って……あのルパン?
思いもかけない名前に思わず赤スーツの彼を凝視する。
今、確かにそう呼ばれた、よね…?
〝ルパン三世〟
あの大怪盗アルセーヌ・ルパンの子孫。
その血を受け継いだ腕前を持つ大泥棒。
世紀の怪盗なんて謳われる程に。
でもヘラヘラと笑っている目の前のこの人は、猿っぽい顔立ちにひょろりとした細身の体。
…これがあの大泥棒?
言われなきゃ絶対わからない。
「あら、オレのこと知ってる?」
驚きを隠せないでいると、にんまりと笑うその目と合った。
「そ。オレの名はルパーン三世」
サラリと告げられる言葉は、さも当たり前のように。
予想外過ぎる人物の名前に反応を返せずにいると、ふと彼は笑みを深めた。
「これでお互いの自己紹介は済んだな」