My important place【D.Gray-man】
第40章 パリの怪盗
「イテテ…案外暴力的なのねぇ」
「そっちが人の私物奪うのが悪いんでしょっ」
大事に数珠を握り込んだまま距離を取る。
蹴られた頭を擦りながらも、まだ余裕ある態度に油断はならない。
でも数珠は取り返せ……え?
握り締めた手の中にあったもの。
それは見慣れた数珠じゃなく、ただの腕時計だった。
嘘、確かに数珠を奪ったのに。
「なんで…確かに取ったのに…っ」
「あーイテテ。それならこっち」
「!」
頭を擦りながら、ほらと左手を掲げる。
その人の手首にはいつの間に通したのか、当たり前にユウの数珠が取り付けられていた。
「その腕前も見込んで、これ返して欲しかったらオレと手ェ組もうぜ」
「っ…そんな腕あるなら人の手を借りなくたっていいでしょ…!」
この人だって此処まで走って逃げても息一つ切れてなかった。
目利きも腕も立つのに、なんで私なんかの手を必要とするのか。
訳がわからず声を上げれば、ぱちりとその目が一度瞬いて。
「…まぁ、色々と事情があんのよ」
返されたのは、意外にも苦い笑みだった。
初めて見るその顔に、思わず勢いが削がれる。
…なんでこのタイミングでそんな顔するの。
これも作った顔なのか。わからない。