My important place【D.Gray-man】
第40章 パリの怪盗
「…はぁ」
溜息一つ。
先に折れたのは、睨み付けていた私の方だった。
こういう策士と駆け引きするのは疲れる。
相手が何者かわからない以上、素性は明かせないけど…下手に取り繕うのはやめよう。
どうせ見透かされる気がする。
「"初めまして"じゃないこと、貴方もわかってるんでしょ。昨夜怪盗Gの見物に来ていた、不法侵入者さん?」
「あらァ、もう仮面ごっこはお終い? 面白味ねぇなぁ」
「なくて結構。貴方と遊んでる暇はないですから」
逃がす気もないけど。
「私が昨夜"あの場"にいたこと、気付いてたんでしょ」
曖昧に、でも思い切って問いかけてみれば、アヒル口のように口角に癖ある口元が微かに笑った。
答えは"YES"だ。
私が木の上に身を潜めていたこと、気付いてて知らぬフリをしてたんだ。
ということは…もう一人の男性も気付いてたってこと?
「あの時のお連れさんは?」
「ああ。あいつはこんなクソ寒い朝っぱらから出歩きたくねぇって部屋にこもったまんま」
肩を竦めて両手を軽く上げて溜息。
そんな反応を示す彼の姿は、"こんなクソ寒い朝"なのに真っ赤なスーツだけ。
寒くないのかな…というかそんな真っ赤なスーツ、この銀色の世界では目立つ気がする。
…屋敷の人に見つからなければいいけど。
「じゃあ貴方はなんで一人で此処に?」
私はゴズの調査が理由だけど、彼は何が目的でまた此処に来たのか。
問えば、にんまりとその口元が弧を描いた。
「よく言うだろ。犯人は現場に戻ってくるって」
「それ怪盗Gのこと?」
「ご名答」
「…私は犯人じゃないけど」
あの場で私と共に見ていたならわかるはず。
一緒にいたんだから、私は白。
怪盗Gじゃない。
「でも関係者かもしんねぇだろ? お嬢ちゃん、普通の女の子には見えねぇし」
「…その"お嬢ちゃん"ってやめて」
手馴れた言い草。
子供扱いされてるみたいで、なんだか好きじゃない。
…あ。
そういえば誰かも似たような口調で"お嬢さん"って私のこと呼んでたな…。
あれも嫌だったけど…あの人の口調は人間味があって、落ち着く声だった気がする。
………あれ?
誰だっけそれ。