第1章 出会い
『向こうでは忙しくて・・・何か疲れちゃって・・・。自分って何なんだろう?って思って。何のためにこんなに忙しくしてなきゃいけないんだろう?って・・・わけがわからなくなっちゃって・・・。おばあちゃんの所に来たの』
「・・・・・」
『自分が自分でもわからなくなっちゃって・・・。おばあちゃんには、少しゆっくりしなさいって言われたんだけど・・・』
彼女はそれっきり黙り込んでしまった。
「俺にはよくわからない・・・けどさ。大変だったんだな」
俺は彼女の頭をポンポンと叩く。
『・・・ありがとう』
「えっ・・・?」
彼女は立ち上がる。俺の方を向いて
『話、聞いてくれて。お兄さん、優しいね』
彼女は俺にニッコリと微笑んだ。
「あっ、いや・・・別に・・・」
そんな彼女の表情にドキッとした。
『私、もう少し、頑張ってみる。コレ、ありがとう。また、会えたらお返しするね』
缶を指さして言う彼女。お返しって、そんなの別にいいのに。
「あぁ、元気出たなら良かった」
『うん、それじゃあ・・・ね』
「えっ・・・?!送って」
『大丈夫、家、すぐそこだから』
送っていくと言おうとした俺を遮って彼女は行ってしまった。
「・・・また、会えるのかな?」
俺は彼女に名前を聞かなかったこと、名乗らなかったことを後悔した。