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たんでき

第2章 酖けて溺れる


怖かった。ではなく、怖い、と。
僕を失うのが怖い訳ではないのだろうとわかった。いや、それも恐怖の対象だったのは確かなようだけど。

「…大丈夫だよ。大丈夫。」

彼女が何にこんなに怯えているのかがわからない。
けれど、いつも毅然とした姿勢を崩さない理想の主がただのか弱い普通の女の子に見えた。そしてわかったんだ。これが、このか細く震えて怯え切った女の子が彼女の本当の姿なのだと。
失望はしなかった。それどころか溢れてきたのはどうしようもない庇護欲と、おそらくは愛しさ。
もしかしたら彼女の真名を知っていたから生まれた感情なのかもしれないけれど。

「ナマエちゃん」
「!」

始めて彼女の真名を口にした。ナマエ…良い名前だね。初めて聞いた時にも思ったけど、いい名前だ。
自分の声が思う以上に甘い響きを含んでいたことに内心で驚きながら、それ以上の驚きでナマエちゃんがバッと伏せていた顔を上げた。
驚きで涙が止まったらしいナマエちゃんの様子にクスリと笑い、その柔らかいカーブを描く頬を撫でる。

「みつ、ただ…」
「大丈夫だよ…僕はどんなキミでも受け入れるし、いつでもキミの味方だからね。」
「……いや、です…」
「……?」
「私に…従わないで…」
「!!」

懇願するように呟かれた言葉に、僕は彼女の怯えをようやく理解できた。
この特殊な空間で、特殊な環境で、精一杯の虚勢を張って。
彼女に従う刀剣男士は彼女を決して裏切らない。彼女を慕う者はもちろん、馴れ合わないと公言している者も、無関心を決め込んでいる者も、根幹の部分で絶対に反発する事はない。謀反は起こさない。
この閉ざされた空間で、『主』は絶対的な支配者だ。
それはきっと


ーーーとても気持ちの悪い世界だろう。

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