第1章 赤い緊縛 [原田左之助]
「なぁ、いつも袴着て、嫌じゃないのか?」
そう言われたのは、庭で稽古をする原田さんを見ていた時だった。
「へっ?」
「いっつもそればっかじゃん。いい加減、娘姿のお前見てみたい」
キラキラと、興味深々の様子で私を見つめる平助君は、まるで子犬の様だ。
「でも、土方さんの言いつけだし……それに――」
「それに?」
一瞬言い淀んだ私を、不思議そうに見つめる彼は純粋だ。
きっと私が、以前言われた原田さんの台詞を思い出していた、だなんて思いもしないだろう。
『袴だと、体の形がよくわかるな……少し、目に毒だ』
そう言った原田さん。
その言葉と、照れた様な原田さんを思い出して、私の頬は少し熱くなった。
「ううん……いいの、私はこれで」
「ふーん……じゃあ無理強いする訳にもいかねーか」
興をそがれたように、平助君は立ち去る。
ふう、と息を吐いてもう一度原田さんの方を見ると、一瞬で目が合う。
驚いて目を大きくした私とは対照的に、原田さんは目を細めて、何かを考えている様子だった。
何を考えているんだろう?と小首を傾げていると、原田さんは一緒に練習をしていた隊士さん達に「おつかれさん」と笑ってから、私の元に歩いてきた。
「もう練習は良いんですか?」
「ん?あぁ。今日はこんなもんだろ……風も熱い」
私の隣に座った原田さんは、手拭いで汗を拭う。
その首筋が、甘く誘うような匂いをしている。
思わずゴクリ、と生唾を飲んだ。
興奮気味に首筋を見つめていると、原田さんは少しフッと笑い、私の頭を小突いた。
「なにそんなに見つめてんだ。いっつも見てるだろ」
「そ、それとこれとは別のお話です!!」
羞恥心で焦る私をからかうように、原田さんは大人の笑みを浮かべ、私の首筋に触れた。
「俺も……お前の全部を知ってるんだよな」
その言葉に、ゾクリと体が反応した。
その笑みは、何か別の感情がこもっていて……それが私の目を、放さなかった。