第13章 中忍試験〜はじまり〜
「カンクロウ、やめろ」
間近で、その抑揚のない声がリエの耳を掠めた。
全く気配など感じなかったため、リエは驚いて振り返る。
そこにいた全ての者達も、声の主に目を向けた。
彼はサスケとリエの後方、ひとつ上の枝に逆さ吊りで黒衣の男を見つめていた。
「里の面汚しめ……」
「が…我愛羅」
黒衣の男は先ほどまでの横柄な態度とは打って変わり、額に汗を滲ませている。
「喧嘩で己を見失うとは呆れ果てる .…。何しに木ノ葉に来たと思ってるんだ?」
我愛羅と呼ばれた赤毛の少年は、背に大きな瓢箪を背負っている。
一見自分達と年齢差はなさそうなものの、明らかに違った何かを感じた。
落ち着いた口調で話している。
だが、チリチリと針で刺されたようなこの感覚は、殺気だ。
「聞いてくれ我愛羅……こいつらが先に突っかかってきたんだ」
理由はわからないが、こうまで慌てるさまを見ると明らかなほど我愛羅の強さを感じる。
「黙れ……殺すぞ」
弁明も虚しく黒衣の男…カンクロウは一蹴され、更に言葉に凍りついた。
おそらくは我愛羅から感じる剥きだしの殺気のせいだろう。
先ほどとは比べものにならないほどに感じるのだ。
自分に向けられたものではないのに、リエは背筋に冷たいものを感じた。
カンクロウは我愛羅の言葉と態度に震えあがるばかりで、一緒にいた女も何とか穏便にやり過ごすように取り持っている感じだ。
サスケは事の次第を見守っていた。
((こいつが頭か……嫌な目をしてやがる))
平謝りの砂の忍達の態度に納得がいったのか、我愛羅は殺気を取り払った。
「君達、悪かったな」
聞こえた言葉に感情はない。
ただ殺気がのぞかれた分、いかほどか弛めて聞こえた。
我愛羅は謝罪を述べると、すぐにカンクロウ達の傍へと降り立った。
「どうやら早く着き過ぎたようだが、オレ達は遊びに来た訳じゃないんだからな」
行くぞ、と当たり前のように二人に告げると、踵を返した。