第10章 波の国〜修行〜
イナリは目の前で父親を殺されたという。
義理の父とはいえ、大好きな人を目の前で失ってしまうなんて……なんて辛いことだろう。
もし自分の父親も、自分の目の前で殺されてしまっていたらーーー
そんなことを少しでも考えた自分に嫌悪して、リエは小さくため息をついた。
と、そこへ。
「リエ、こんなところにいたの」
ひょっこりと顔を覗かせたのは、カカシだ。
再不斬との戦いでの疲労をとる為まだ休んでいなければならないはずだが、その顔からはもう疲労感はほとんど見られない。
「先生。寝ていなくて大丈夫なんですか?」
「もうだいぶいいし、寝ているばかりでも退屈でね~」
そう言い笑って、カカシはリエの隣に腰掛ける。
リエと二人きりなんていうこの状況をサスケに見られたら睨まれてしまうだろうが、彼は今、タズナの話を聞いて憤慨したナルトと共に木登り修行中だ。
「それに、リエにちょっと聞きたいこともあったしね」
「聞きたいこと?なんですか?」
「……ここ来る途中、忍に襲われたでしょ?そのとき本当は何があったの?」
先日、ガトーの手先に襲われたときのリエの様子。
カカシの変わり身がやられたときの、あれだ。
突然の奇襲に取り乱したのとは違う何かをカカシは感じていたのだ。
「えっ…と……」
リエは一瞬体を強張らせ、視線を泳がせると眉を下げた。
「……わからないんです。何かとても恐ろしい体験をしたような気がするんですけど、全然覚えていなくて。……心配をおかけしたのに、黙っていてごめんなさい」
不安気にそう告げるリエの言葉に、カカシも眉を寄せる。
((チャクラの枷が外れた理由はそれか。
三代目が心配していたようなことが無ければいいが……))
カカシが抱える一抹の不安。
目の前の少女の過酷な真実。
出来るなら、知らぬまま幸せに過ごしてほしいと切に願う。
「……そうか…いや、ま、あれだ。思い出せないってことは、実はたいしたことじゃなかったのかもしれないしな。気にするな。不安にさせてごめーんね」
笑顔で頭を撫でてやると、リエは少し和らいだ表情で目を細めた。