第9章 波の国〜鬼人〜
上忍同士の壮絶な戦いは凄まじかった。
レベルが違いすぎて、目を奪われるばかりだ。
そして恐ろしい速さで繰り出される彼らの術は、周りの森までも飲み込み、凄惨な傷跡を残した。
「なぜだ……術をかけようとした俺が……。お前には未来が見えているのか?!」
自分の力に確固たる自信を持っていた再不斬は、驚愕の色を隠せずにいた。
まさか自分の組んだ印が、カカシにより早く放たれ、それによって敗れるなどとは。
考えてもみなかった、酷い敗北だった。
「……ああ。お前は、死ぬ」
カカシがそう言った、そのときだ。
「…フフ、本当だ。死んじゃった」
目の前に崩れ落ちた再不斬の首を千本が貫いていた。
おそらく急所への直接攻撃による、ショック死だろう。
その場にいた全ての者が、声の主に引き寄せられた。
そこに映ったのは、奇妙な仮面をまとった少年。
カカシは地面に突っ伏した再不斬の脈を取り、生死の確認をした。
「……確かに死んでいるな」
そしてちらりと仮面の少年を見据える。
少年はひらりと軽い身のこなしで地に降り立ち、丁寧な物腰で頭を下げた。
その声は優しくたおやかで、今しがた人一人殺した様子には思えない。
それほどに平静を保った声色だった。
それが更に恐ろしく感じられる。
「ありがとうございました。ボクは霧隠れの追い忍です」
少年は穏やかな声でやんわりと礼を述べた。
背丈や声のトーンからして、リエ達とそう変わらない年齢だろう。
「ボクはこの死体を処理しなければなりません。色々と秘密の多い身体ですから。……それじゃ、失礼します」
仮面の少年は細い肩越しに身の丈以上もある再不斬を抱え、姿を消した。