第8章 波の国〜出発〜
「ナルト、すぐに助けてやらなくて悪かったな。怪我させちまった。お前がここまで動けないとは思ってなかったからな。…それより、リエの様子がおかしいが……」
そうカカシが言うが早いか、サスケがリエの元へと走り寄る。
焦点が定まらず、頭を抱えて震えているリエ。
サスケが目の前にいるのに、それにも気が付かない様子だ。
そんな彼女を見て、サスケはギッと歯を食いしばった。
敵に気を取られ、リエの身を気遣ってやれなかった自分に腹が立った。
「リエ…リエ!おい、しっかりしろ!」
「っ…やだ……いやぁ……!!」
「リエ!!」
サスケは取り乱すリエをきつく抱きしめる。
浅く、リエが喉で息を呑む音が聞こえた。
「落ち着け!大丈夫だ、もう敵はいない。カカシも無事だし、皆生きてる!」
その言葉にリエの焦点が少しずつ定まってきた。
リエの瞳がゆっくりとサスケの黒い瞳を見つめる。
「……サスケ…?」
「カカシなら変わり身の術で傷ひとつない。安心しろ」
「ごめんね~ビックリさせちゃって。ちょっと調べたいことがあってね……」
へらへらと笑いながら顔を見せたカカシを、サスケは忌々しく思う。
リエがこうなったのはアンタのせいじゃないのか、と。
当のリエは呆然とカカシの姿を見つめていて、はたと気付いた。
((あれ……私さっき、何であんなに取り乱したんだっけ?))
先程自分が見たはずのものを一切覚えていなかったのだ。
今までこんなこと一度もなかった。
物覚えがいい方ではないが、こんなついさっきのことを忘れてしまうなんて。
未だ震える体をぎゅっと抱きしめてリエは俯いた。
自分の知らない"自分"が、怖かった。