第8章 波の国〜出発〜
――ドクン
風が、強く吹いていた。
先ほどまであんなに晴れていたのに、太陽は厚い雲に覆われていて姿は見えない。
突然、腕に重みを感じた。
『……に……よ』
目の前にはいつの間に現れたのか、細身の女性がリエの両腕を掴んでいた。
その顔はよく見えず、息が荒く声もよく聞こえない。
『……い……さ…』
掴まれた腕からするりと力が抜け、女性が地に倒れる。
傷だらけのその身体は血にまみれ、その背にはクナイが何本も突き刺さっていた。
よく見ると、女性が掴んでいた自分の腕にはべったりと血がついている。
「……ぁ……あ………」
眼前が赤く染まる。
遠くにいる影が、ゆっくりとこちらに向かって来るのが見えた。
頭がガンガンする。
耳に、何かが壊れたような音が届いた。
風の音がーーーー
消えた。