第1章 はじまり
そして今。
イタチが見つけたリエはこうして、誰にも見つからないように森の奥で、一人で修行をしていた。
雨でずぶ濡れになりながらも
悲しみを振り払うかのように一心に。
それでも気持ちは散漫していて。
散らばった手裏剣は、リエの感情をそのまま表しているようにイタチには見えた。
「……私……」
イタチがリエに歩み寄ると、消え入りそうな声で彼女は呟いた。
「強く、ならなきゃ……」
それはまるで、自分に言い聞かせるように。
「……お父さんと約束したの………」
リエが二歳のときに彼女の母が他界した為、リエはずっと父親のテルヤと二人で暮らしていた。
上忍としての任務だけでなく上忍師としても働いていたテルヤは常に忙しく動き回っていたが、割ける時間は全てリエ共に過ごすことに努めていた。
それでも幼いリエは任務というものが理解出来ず、寂しさのあまりテルヤを困らせることがあった。
そのときに交わした、約束。
「“大好きな里の皆を守ることが忍者のお仕事なんだ”……そう教えてもらったの。私も忍者になって、大好きなお父さんを守りたいって……私、そう言ったの。そしたらお父さん、嬉しそうに笑って、いっぱい修行して強い忍者になるんだよって………」
優しい笑顔。
いつも頭を撫でてくれる大きくて温かい手。
名前を呼んでくれる低い声。
大好きな、お父さん。
「嬉しかったの。お父さんとの指切りの約束、初めてだったから……でも」
もう、叶わない――