第1章 はじまり
里長の火影に呼び出されて火影邸に行ってみれば、自分の師が殉職したと聞かされた。
イタチの師である空風テルヤは次期火影候補に名をあげられる実力を持つ、とても気さくで人望も厚い上忍だった。
幼くして下忍になったイタチの力を買ってくれていたがしかし甘やかすわけでもなく、過剰な期待を押し付けるわけでもない。
他の大人達とは違い、イタチを特別扱いすることもなかった。
天才といわれるイタチも尊敬する忍で、数少ない相談者で、頼れる師であった。
その人の死を冷静に受け入れている忍の自分と、心の中で深く悲しむ素の自分がいることにイタチは気付いていた。
それでも表情をほとんど変えない自分は“忍としては”優秀なのだろうとイタチは自嘲する。
三代目火影はテルヤの死を伝えて一息おいてからイタチに、リエを頼むと、そう言った。
空風リエ。
イタチの弟である、うちはサスケと同い年の、まだ幼い少女だ。
テルヤが部下や仲間達に「可愛いだろう」と事あるごとに自慢をしていた彼の愛娘。
弟の相手で慣れているだろうからとテルヤがいないときによくリエの世話役を任されていたのが、イタチだ。
大切な愛娘を任せるくらいなのだから、テルヤもイタチに信頼を置いていたのは間違いないだろう。
彼だけではなくリエもまた、優しく博識なイタチを信頼し懐いており、イタチも実の弟と同じくらいにリエを可愛がっている。
彼女と共に過ごした時間は多くはないが、イタチはリエのことをよくわかっていた。
それこそ、リエがどれだけ父親のことを愛しているかということも。
その父親の死を伝えられた幼い彼女がどんな気持ちになったか、考えるだけでも胸が痛む。
辛い現実を聞かされたリエは、涙を見せなかったという。
ずっと下を向いたまま火影と目を合わせることなく、何も言わずに出ていったリエを火影は心から心配していた。