第33章 明日へ
いつもは賑やかな繁華街も、こんな早朝では人気もなく静かなものだ。
ちょうど昇ってきた朝日と、もう活動を始めている鳥達、そしてこの里に吹く風だけが、リエの旅立ちを見守ってくれている。
旅に出ると告げると、風牙は「好きにしろ」と言った。
お前がいつどこに居ても、風はそこにあるのだから、と。
遠回しだが、自分はいつでもそばにいる、ということだろう。
彼の言葉が、とても頼もしく、嬉しかった。
昨夜書いた大切な友人宛の手紙を届けようと繁華街の角を曲がると、リエの目に、思いがけない人物が飛び込んで来た。
「…シカマルくん?」
「おう」
リエが声をかけると、シカマルは店のシャッターにもたれ掛かっていた背を正し、歩み寄って来てくれた。
「昨日、五代目からお前が今日から休暇をとって修行の旅に出るって聞いてな。ま、なんだ、なんか眠れねぇし、ちょうどいいかと思って。見送り…ってほどのもんでもないけどな」
そう言って、照れるのを隠すように自身の頭を掻くシカマルを見て、リエは思う。
休暇といえどいつ旅立つとは綱手にも何も言っていないのに、彼は一体いつから待っていてくれたのだろうか。
一人逃げるようで、後ろめたさから人目を避け早朝に発つであろうことを、彼はわかっていたのだろうか。