第33章 明日へ
父が亡くなったあの日、思った。
“何でもない日常”が、どんなに幸せなことなのかを。
失って初めて、自分がどんなに幸せで、恵まれていたのか気付くものだと。
独りになったあの日から、ずっと隣には彼がいて
いつしか思いを同じくして、愛する人から愛されるようになって
幸せだった日々。
もうこの幸せを失うまいと、必死だった。
けれど、日常はまた崩れた。
幸せとは脆いものだ。
そして、自分の心も。
思っていた以上にずっと、彼の存在が心の支えになっていたのだと、また、失ってから気付いた。
涙が枯れるほど泣いた。
後悔は数え切れない。
でももう、後ろばかり見るのはやめよう。
彼の支えがなくても、自分一人で真っ直ぐ立って、きちんと歩けるように。
いつかまた、どこかで彼に会えたときに、少しでも成長した自分でいられるように。
青い果実 33
リエは身支度を整え荷を背負うと、もう一度机に飾られた写真を見た。
父と、父に抱かれて笑う幼い自分の写真。
アカデミー卒業式のときに撮った、友人達との写真。
七班結成時に撮った集合写真。
サスケと二人で写ったもの。
そしてもう一つ、押入れの奥深くにずっと隠しておいた写真を取り出す。
イタチとサスケと、三人で撮った写真だ。
柔らかな笑みを浮かべる幼いサスケとイタチの間に、満面の笑みの自分がいた。
サスケが見つけたら怒るだろうなと思いつつ、どうしても捨てられなかった、大切な記録。
この笑顔が嘘だったなんて、思えないから。
遠い未来でもいい。
またいつか三人で、ここで笑い合えますように。
そう願いを込めて、写真を机の上の思い出達と共に並べた。
「……行ってきます」
この里で出会った、大切で大好きな人達に向けて、そう声をかける。
今の自分が在るのは、彼らのおかげだ。
パタンと音を立てて閉めた扉の前でリエはひとつ深呼吸をし、そして顔を上げた。
まだ早朝の、冷たい空気が肌を刺す。