第32章 未来の為に
「皆、何かしらの辛いことを乗り越えて生きてる。私だけ特別なんかじゃないのに。ナルトくんも、サクラちゃんだって、サスケがいなくなって辛いはずで、でも前を向いて笑顔を見せてくれるのに…私だけ、何も変わらない…。
…気を遣ってもらうと、その度に、自分の不甲斐なさを突き付けられてる気がして…皆の優しさをそんな風に思ってしまう卑屈な自分が、たまらなく嫌で…すごく申し訳なくなるんです…」
そう言うリエに、カカシは思う。
((リエの場合、ナルトやサクラとは全く状況が違うからな…))
ただの恋人同士とも訳が違う。
一度孤独と絶望を味わった二人が、お互いを拠り所に生きていた。
恋人以上の、自分自身よりも大切な存在だったはずだ。
死別したわけではないものの、きっと今までのどんな悲しい別れより、彼女の心のダメージは大きいのだろう。
二人が最後にどういう会話をしたのかはわからないが、きっぱりと別れを告げられたわけではなさそうだ。
けれど、サスケはリエの制止を振り切り、自分の意思で彼女の元を去って行った。
自分がいつも着けていたピアスを片方だけ彼女に預けたということは、気持ちはお前にある、とでもサスケは言いたかったのだろう。
けれどリエのことを本当に思うのだったら、サスケはそうするべきではなかった。
サスケ自身が知っているかは不明だが、サスケは大蛇丸に新たな器として狙われている。
大蛇丸が行おうとしている”不死の術”の転生は、三年の時を有すると自来也に聞いていた。
少なくともその間サスケが命を落とすことはないだろうが、その後はどうなってもおかしくはない。
相手はあの、三忍の一人、大蛇丸だ。
サスケの身勝手な行動のせいで、いつ帰るとも知れない、また会えるかもわからない、そんな相手の気持ちだけを糧に、失った大きな穴の拠り所も見出せないまま、リエは孤独に生きていかなくてはならなくなった。
サスケへの思いの切り替えが簡単に出来る程
サスケからの思いを無下に出来るほど
リエは非情にはなれないのだから。