第32章 未来の為に
「食欲ないのか。甘味処はまたにすればよかったね」
眉を下げて笑うカカシに、リエは小さく首を振る。
「いえ、先生のせいじゃ…すみません…」
「リエが謝ることはないさ。でも、少し痩せたな。食べれてないのか?」
「……一度ごはんつくったんですけど…癖でつい、二人分つくっちゃって…。すごく余ってしまって、勿体無いのに、でもどうしても食べれなくて…捨ててしまったんです。それ以来、つくらなくなって…でも、外食する気力も出なくて…。
今思えば、残り物は次の日にまわせばよかったのに、そのときはそんなことも思い浮かばなくて…」
カカシはそれを聞いて、そのときのリエの心情を思った。
幼い頃から毎日つくっていた料理は、リエにとって自分の為というよりはサスケの為のものだったのだろう。
もうつくっても食べてくれる当てのない料理を目の前に、リエは何度目かの失意を味わったに違いない。
それを捨てるしかなかったとき、リエはどんな思いでいたのだろう。
「…今日、夜も一緒に食べよ。外食だと味濃いめだから今は胃が受けつけないだろうし、俺が何かつくるよ。得意じゃないけど」
同情じゃない、といえば嘘になる。
それでも、リエが一日でも早く笑える日が来るように、自分が心の支えになれればと、カカシは思ったのだ。
「食べられなかったらそれでも構わない。俺がそうしたいだけだから」
カカシがそう優しく微笑むと、リエは申し訳なさそうに目線を逸らしてしまった。
「……ありがとう、ございます」
「…迷惑だったら、無理しなくていいのよ?」
「いえ、お気持ちはすごく嬉しいんです。でも、そうでなくて……」
少し言いにくそうに目を伏せて、リエは手に持っていた食べかけの団子を皿に戻す。
「カカシ先生も、里の皆も…私に気を遣ってくれて…。私がいつまでも立ち直れないせいで迷惑かけているのに、皆すごく優しくしてくれる…。その気持ちがとっても嬉しくて…でもすごく、申し訳ない気持ちになるんです…」