第32章 未来の為に
「リエ、ここにいたか」
火影邸から帰る途中、ぼぉっと川を眺めていたリエの前に、カカシが現れた。
彼が突然目の前に現れることはよくあることなので、リエも大して驚く素振りもない。
「……何かご用ですか」
静かにそう問うリエに対し、カカシは満面の笑みで答える。
「うん、いきなりだけど、デートしよう」
語尾にハートがつかんばかりににこやかにそう言うと、カカシはリエの返答も待たずに、木ノ葉でも有名な甘味処に連れて行った。
リエの好物であるというみたらし団子と、自分用にところてんを頼み、カカシは運ばれて来た茶をすする。
それを見て、リエは思わずこう口にした。
「…先生の素顔、初めて見ました」
「ん?そうか…」
そう、カカシはいつ何時も鼻まで覆われたその布を取った姿を見せたことはなかったのだ。
ふと、七班メンバーでカカシの素顔を見ようと四苦八苦したことを思い出した。
皆でカカシの出っ歯姿だとかタラコ唇だとか想像して。
あのときは皆、心から笑い合っていた。
「俺の素顔は好きな子にしか見せないのよ」
そう言って笑うカカシ。
こんなに綺麗な顔を隠す理由がリエにはよくわからなかった。
本気なのか冗談なのかも、よくわからない口調は相変わらず。
本当にこの人は侮れない。
……サスケが最初にカカシに会ったときに言っていたとおりに。
団子とところてんが運ばれてきてカカシがそれを口に運んだので、リエも団子を一本手に取る。
一口食べてみるも、大好きなはずのそれが喉を通るのにものすごく時間がかかった。
ここ最近全く食欲が湧かず、食べ物はほとんど口にしていない。
久しぶりの感覚に、身体がついていかないのかもしれないとリエはぼんやりと思った。