第32章 未来の為に
ヒナタの来訪から数日後、ある決意を胸にリエは火影邸へと赴いていた。
「綱手様、お願いがあります」
「なんだ?」
綱手は仕事をしていた手を止めずにそう答えたが、次のリエの言葉を聞いて目を丸くした。
「しばらくの間、旅に出たいんです。その許可をください」
青い果実 32
「……なんだと?それは、きちんとした理由があってのことだろうな?」
綱手は眼光鋭くそう問うた。
「勝手を言ってることはわかっています。でも…今この里にいることが…辛いんです」
綱手とて、リエとサスケとの関係はもちろん把握している。
同じ女として彼女の心情もわかる。
だが……
「今の木ノ葉は戦力不足なんだ。下忍といえど、やるべき仕事は山程ある。お前の我侭を聞いている余裕はない」
綱手が強くそう言うも、リエは引き下がらない。
「今の私では、皆の足を引っ張るだけです」
確かに、そのとおりだった。
あれから何日もたつというのに、リエは未だにサスケのことを引きずり、魂が抜けたように何をするにも気力がない。
こうして喋るようになっただけでもマシになったほうだ。
わかっているならどうにかしろと言いたかったが、愛する人を失う気持ちは綱手にも痛いほどよくわかってしまう。
立ち直れと言われて立ち直れるものでもない。
けれど、火影という立場上、はいどうぞと言うわけにもいかないのだ。
「……こういう言い方はしたくないが、大切な人を失ったのは決してお前だけでない。それでも皆前を向いて、この里で頑張って生きているんだ。お前の我儘だけを聞くわけにはいかない」
「わかっています。自分がいかに勝手なことを言ってるのかも…サスケは生きているのだから亡くすのとは気持ちの持ちようが違うことも…。
でも、この里には彼との思い出が多すぎて…何をするにも後ろばかり見てしまって…皆にも心配ばかりかけて、これ以上迷惑をかけたくないんです。気持ちがきちんと前を向けたら必ず帰ります。だから…どうか、お願いします」
深々と頭を下げるリエの前で、綱手はわかりやすく大きくため息を吐いた。
これはいくら言っても考えを変えないと悟ったのだ。
少し考えさせてくれとリエを下がらせた後、綱手はカカシを呼んだ。