第31章 暗闇
『お父さんもお母さんもいないけど、でも私は不幸じゃないよ。だって私にはヒナタもいてくれるし、サスケもイタチもいるからね』
アカデミー時代のリエの言葉が、何故か今、ヒナタの脳裏に蘇った。
『…サスケって、うちはくんのこと?イタチさんって?』
『うん。ヒナタも知ってるあのサスケだよ。お父さんが亡くなってから、サスケのおうちでお世話になっているんだ。自分の家にもたまに帰っているけど、そのときでもご飯は一緒に食べているの。イタチっていうのはサスケのお兄さん。二人も、もちろん二人のご両親もとってもいい人達で、私大好きなんだ。
アカデミーに来ればヒナタにも会えるし、帰ればサスケとイタチがいるんだもん。皆がいてくれるから、私は両親がいなくても元気で楽しくやっていけるの。だからヒナタがそんな顔することないんだよ』
アカデミー時代の子供の悪ふざけ。
きっと好きな子に対する意地悪だったのだろうけれど、ある男の子がリエに”親なし”とからかってきたことがあった。
任務で親を亡くす子供は少なくないけれど、両親共にいなかったのは、その頃はリエとナルトくらいのものだったから。
すごくすごく腹が立って、怒りたかったけれど、ヒナタには言い返す勇気がなくて。
笑ってやり過ごしたリエに、何も出来なくてごめんなさいと謝ると、リエはまた、笑ってそう話してくれた。
『ホントはね、お父さんが死んじゃってすぐのときはすごく悲しくて辛くって、思い出して泣いちゃうことなんてしょっちゅうだったんだ。でもサスケがね、そんな泣くくらいならオレがずっと一緒にいてやるって言ってくれたの。顔真っ赤にして』
そう言って、そのときの彼を思い出したのかクスリと笑って。
『”お前は独りじゃない”よって言ってくれたみたいで、すごく嬉しかったんだ』
そのリエの穏やかな優しい顔がとても綺麗だったのを、ヒナタはよく覚えていた。