第31章 暗闇
あれから数年経って、里の話題が、うちは一族の暗殺で持ちきりだった頃。
アカデミーでのリエの笑顔にはずっと影があって、きっと一人残されたサスケが少しでも安心出来るように、無理して笑っているんだと気付いた。
でも、あのとき、うちはの家族が大好きだと言ったリエも、辛くないわけがなくて。
無理してまで笑わないでと、ヒナタが声をかけたときのことだ。
『ありがと、ヒナタ……。でも、私が悲しい顔したら、サスケに余計な心配かけちゃうでしょ?今一番辛いの、サスケだから…だから今は、無理してでも笑っていたいんだ』
そう言って、辛そうに笑っていた。
優しすぎて、いつも自分のことを後回しにして
それが彼女のいいところでもあり、悪いところだとも思った。
『これからサスケと一緒にうちで暮らすことになったの。私は傍にいることしか出来ないけど…それで、少しでもサスケの気持ちが救われればいいなって、思って…私から提案したんだけどね』
少し経って、リエからそう聞いて、ヒナタはまた思った。
自分のことも、大事にしてほしいと。
でも、そうじゃなかった。
『でもホントはね…サスケが隣にいてくれると、私も、救われるんだ。私も…独りは、寂しいから……』
彼の存在そのものがリエの心の支えでもあるのだと、そのとき理解した。
”独りは寂しい”、と。
初めて聞いた、彼女の弱音。
リエにはヒナタをはじめ、彼女を慕う友人はたくさんいる。
それでも、リエにとって誰よりも大切な人は
”うちはサスケ”だけなのに。
「リエちゃん…!」
泣きじゃくるリエを、ヒナタは抱きしめた。
親友なんて言っても何も出来ない。
一緒に泣くことくらいしか出来ない。
((うちはくん…リエちゃんが泣いてるよ?こんなに悲しんでるよ?リエちゃんを抱きしめてあげるのは、うちはくんの役目じゃないの?うちはくん以外の人じゃぁ駄目なのに…どうしてここにいないの?あんなに大切にしてたのに…どうしてリエちゃんの傍に、いてあげられなかったの?))
どうしようもない思いがこみ上げて、それを口に出すことも出来なくて
言う相手も、すでにいなくて。
ただただ、悔しさと悲しみだけが残された。