第31章 暗闇
ヒナタは、キバが入院したと報せを受けて病院を訪れたとき、今回の事件のことを聞いた。
うちはの生き残りが里を抜けた。
彼を追って行った下忍は、生きて帰還したものの重症。
そして、意識を失って病院にいたリエが、いつの間にか勝手に抜け出したという。
普段のリエなら、人に心配をかけるようなことなど絶対にしないのに。
周りのことを考えられないほどショックが大きいのだろう。
心配になったヒナタはリエがいるであろう彼女の自宅へと足を運んだ。
下忍になってからはお互い忙しくて、なかなか会う機会もないままだったので、この家に来るのも久しぶりだ。
アカデミー時代にはリエがよく誘ってくれて、ここでお茶したり、一緒に修行したりもした。
修行から戻ってきたサスケに出くわしお互い気まずい顔をしたのをリエが笑っていたことも、今ではいい思い出になってしまったというのか。
呼び鈴を鳴らすと、中からガタンという大きな音がした。
駆けてくる足音。
勢いよく開いた扉。
そして、慌てた様子で出てきたリエは、ヒナタの姿を見て肩を落としたように見えた。
「…ヒナタ」
「あ、あの……」
「久しぶり、だね…。あがって。お茶いれるよ」
「あ…ありがとう……」
ヒナタは戸惑いが隠せなかった。
中忍試験が終わってからリエがヒナタを見舞いに来てくれたときの笑顔も以前とは少し違った印象を受けたが、今回はそれ以前の問題だった。
いつも前を見続け輝いていた彼女の瞳は虚ろで、それには力も光もない。
自分に会う度に見せてくれるあの輝かんばかりの笑顔も、その面影すらも…全ての感情が消え失せてしまったかのように。
((…もしかして……さっき、うちはくんだと思ったのかな…))
大好きな人がいなくなって、辛くないわけがない。
しかも彼女は、ほぼ四六時中彼と一緒に過ごしていたのだ。
当たり前の日常がぽっかりとなくなってしまったら、気力が落ちるのも当然で。
もしかしたら彼が帰って来るかもしれないという希望を捨てられないのも、当然だ。
呼び鈴の相手が自分でなく彼だったなら、リエはどんなに喜んだだろう。