第31章 暗闇
商店街を行き交う人々の笑い声が嫌に耳についた。
ここに買い物に来て、お店の人達と世間話をするのが好きだったはずなのに。
今はただ、この賑やかさが煩わしくて仕方ない。
裸足でふらふらと歩くリエを不思議そうに、時折気味悪そうに見てくる人もいたが、そんなことにもリエは気付けなかった。
「お、リエちゃん!今日はいいトマト入ってるよ!」
馴染みの八百屋の店主がリエに気付きそう声をかけてきた。
それを聞いて、家の冷蔵庫にはいつもトマトがあったことを思い出す。
トマトはサスケの好物で、トマトを出すとどことなく嬉しそうだったから、いつでも出せるように常にストックしておいた。
美味しそうにトマトを食べるサスケを見るのが、とても好きだった。
一緒に買い物に来ると必ず荷物を持ってくれたサスケ。
ありがとうと微笑みかけると、「当然のことしてるまでだ」なんて言って、照れくさそうに頬を掻いていた。
でももう、その日常は戻ってこない。
八百屋から目を逸らし無言のまま立ち去るリエを、不思議そうに八百屋の店主が見つめていた。