第31章 暗闇
真っ暗だ。
目を開けたはずなのに何も見えない。
瞳に、何も映らない。
暗闇が、リエを支配していた。
((……どこだろ、ここ。なにが、あったんだっけ…))
違和感を覚えて、握り締められている自分の右手を開くと、小さなピアスが、そこだけライトがあたっているようにぼんやりと姿を見せた。
紅く光るそれは、サスケにプレゼントしたピアスだ。
ルビーはサスケの誕生石。
そしてその宝石言葉は、情熱、慈愛、威厳。
そして不滅の炎にたとえられていると聞き、サスケにピッタリだと思い、衝動買いしたもので。
中忍選抜試験が終わってから、彼に渡した。
試験期間でサスケの誕生日を祝うことも出来なかったから、遅れてしまったけれども誕生日プレゼントとして。
あのときのサスケは優しい目で「綺麗だな、ありがとう」と笑ってくれた。
勢いで買ったものの、サスケの耳に穴を開けてしまうことへ罪悪感はあった。
それを払拭するように、サスケはすぐにピアスをつけてくれた。
「リエの愛が形になったな」なんて、冗談っぽく笑って、「これをしてれば、隣にいられないときでもお前とずっと一緒にいられる気がする」とキスをしてくれた。
そのピアスの片方が、今自分の手の中にある。
((あぁ…そうか…))
あのときの雨の冷たさと、どんどん遠ざかり小さくなっていくサスケの背中を思い出す。
サスケが自分を置いて行ってしまったのが悪夢ではなかったのだと、このピアスの存在で認めざるを得なくなってしまった。
あの温もりはもう……自分の元には帰ってこない。
指先に集めた風を細く鋭く変化させ、耳たぶに穴を開ける。
開いた自身の右耳に持っていたピアスを突き刺すと、血が落ち白いシーツを汚した。
そのとき初めて、自分がベッドで寝ていたのだと気付いた。
((……痛い……))
ベッドから降りると、ひんやりとした床の冷たさが素足に伝わってきた。
体がだるい。
足が鉛のように重くて、前に動かすのも辛かった。