第30章 涙雨
そのままリエは意識を失うように眠りにつき、時はすでに夜になっていた。
風牙は身体が冷えないようリエに寄り添い、パックンと一緒に木の下で休んでいた。
【…おぬしは、昔からリエを知っておるのか?】
風牙は心配そうにリエを見つめるパックンにそう問い、目を細めた。
パックンも神獣たる存在に少し緊張しているのか、身を硬くして答える。
「まぁ…そうですな。関わりが深くなったのはリエがワシの主人の教え子になってからですが…」
【我は、これの父親の死の間際に娘を頼まれ、姿を見せずとも時々様子を見ておった。命の危機に瀕したとき、少しばかり手助けしたこともある。ずっと一緒にいたというあの小僧のことは興味がなくて覚えてもおらんのだが…リエのことは、少しはわかっていたつもりだったのだがな】
「……リエに言ったことを悔やんでおいでですかな?」
パックンのその言葉に風牙は目を伏せ、辛そうに眠るリエを見る。
修行のとき、どんなに厳しく強く言っても、リエはめげることなくついて来た。
まさか自分の言葉で泣かせてしまうとは、思ってもみなかったのだ。
「確かに言い方は多少きつくはあったかもしれませんが…ワシはあれでよかったと思いますぞ。リエは辛いことを辛いと言わず、心配をかけぬよう自分の中に溜め込む悪い癖がありますからな。あなたのように、ちゃんと吐き出させてくれる人が必要なのです。
リエが少しでも辛い気持ちを言葉に出来れば、心の傷が癒えるのも早いかもしれない。だから、あなたは思いのままをぶつけていけばいいと思います。リエはあなたを信頼しているようですしな」
ポンと自慢の肉球をリエの腕に置いて、パックンは優しい眼差しを向けた。
「ワシら木ノ葉の住人は、どうもリエには甘くなってしまいますから」