第30章 涙雨
真っ赤に腫れ上がったリエの目を見て、風牙は更に言葉を続ける。
【我がわざわざあの小僧の元へ送り届けてやったというのに、なんだあの様は。意地でも止めるんじゃなかったのか?そんな風になるなら、なぜああもあっさり行かせた。気絶でもなんでもさせて、無理やりにでも連れ戻すことだって出来たはず。それこそ、我に頼みでもすればそれくらい容易なことは百も承知であろうが!それをしなかったのは、汝がそれでいいと思ったからであろう!?】
「だって…サスケが、行かせてくれって……」
【呆れたな。そんな程度のことで引き下がるほどのものなのか。お前の思いとやらも、薄っぺらいものだな】
「……っ風牙に…風牙に何がわかるのよ!!」
リエが初めて声を荒げた。
目にいっぱい涙を溜めて怒る主人に、風牙も若干うろたえる。
「私がどれだけサスケを好きなのかも!どれだけ必死で止めたのかも!風牙はわかってないから、そんなこと言えるんだ!
あんな顔で行かせてくれって言われて、あげたピアスまで返されて………もう…止めても無理だって……無理矢理連れ戻しても…そこに…私の隣に、今のサスケの幸せはもうないんだって……わかったときの私の気持ちなんか……風牙にわかるわけ、ない……」
最後までそう絞り出すと、リエは大粒の涙を零した。
「……ずっと一緒だって……言ったのに……」
波の国でお互いの気持ちを確かめたそのとき、サスケとそう約束した。
今まで、どんなに小さな約束でも、サスケは守ってくれたのに。
そっと風牙が寄り添ってくれた。
彼の首元に顔を埋め、ぎゅっと抱きしめる。
「……うそつき……」
その言葉を最後に声を上げ泣き続けるリエを、風牙とパックンは黙ったまま見守った。