第30章 涙雨
風牙は里の様子を、風の中で見ていたリエの姿を思い浮かべる。
人々は皆笑顔でリエと接し、その雰囲気は皆が皆柔らかいものだった。
それだけで、どれだけリエが皆に好かれているかがわかるほどに。
愛ある故の叱咤、と言うが、確かにあの連中では自分のように強く言う者はそういないだろうなと風牙は思う。
リエはいつも真っ直ぐだった。
いつも他人のことばかり気にして。
守りたい人がいると、その人の為に強くなりたいのだと、何度聞いたことかわからない。
彼女があれほどまでに頑張る理由も、全ては大切な一人の為だったのに。
リエの一途で真剣な想いまでも捨て、得るものに価値などあるのだろうか。
そもそも、たかが人間一人のことになぜ神獣である自分がこうもモヤモヤしなければならないのか、と腹が立った。
それも全てあの小僧のせいだ、と風牙は思う。
【本当に馬鹿な男よ。あの小僧…絶対に許さぬ】
風牙の呟きは誰に聞こえることもなく、風に消えた。
太陽が昇り空が明るくなった頃、心配したカカシがリエを迎えに来てくれた。
「……こりゃまた……驚いた」
風牙の姿を見て早々、カカシは驚愕の声を上げた。
出ている右目だけでも、驚いていることが手に取るようにわかる。
「風使いの空風一族のことは聞いてたけど…まさか伝説の生物がリエに力を貸していたとはね ……」
【まだ未熟ではあるが、リエはそれだけの力を秘めているということだ。
…我が主のこと、頼んだぞ】
「…主、ね。もちろん」
眠るリエを背負い、では、とカカシは地を蹴る。
パックンが風牙にペコリと頭を下げてからカカシの後を追っていく姿を見届け、風牙はその姿を風に戻した。
「パックン、ご苦労様ね」
森の中を駆けながら、カカシはそう声をかける。
「いや、ワシは何も出来んかった。リエの心の傷は相当なものだぞ。……それで、ナルト達は?」
「ナルトも、サスケを追った奴らも重症だが…生きている」
そうか、とパックンが答えたきり、カカシとパックンは木ノ葉に帰還するまで口を開くことはなかった。