第30章 涙雨
雨が止み、雲の間から光が差し込んできた。
リエの心とは裏腹に、空は明るくなっていく。
重い足取りで来た道を戻る間に、何度サスケと別れた場所を振り返っただろう。
彼はもう戻ってこない。
そうわかっているのに、この現実を受け入れたくなくて。
今起きたこと全てが……悪い夢であってほしかった。
互いの想いはどうであれ、サスケは結局復讐を、力を選んだ。
自分は、捨てられたのだ。
誰よりも愛した恋人に。
誰よりも大切な、家族に。
枯れるほど流した涙が、また溢れた。
そんなリエに何て声をかけたらいいかわからず、パックンも言葉を探していた。
と、そこへ。
【いつまでもなんだ、うじうじと】
そう声を上げ突如現れた獣に、パックンは警戒心をむき出しにした。
しかしその神々しい姿に、彼がただの獣ではないことを悟り、頭を下げる。
「まさか、とは思いますが…あの伝説の…神獣様でございますか…?」
【ほぅ、忍犬にしては賢いと見える。まぁそんなことは今はどうでもよいわ。我はこの愚か者に説教でもしてやらんと気が済まぬ故、少し黙っておれ】
ピシャリとそう話を終わらせ、風牙はリエにその金の眼を向けた。
しかしリエは風牙が姿を現したことにも気付いていない。
暗く淀んだ目でどこを見ているのかもわからないリエを、風牙は叱咤する。
【いい加減しっかりせぬか。汝がいくら悲しんでも、あの小僧はもう帰っては来ないのだぞ!】
帰ってこない、その言葉でリエがビクリと震えた。
ゆっくりと頭を上げ、ようやく風牙と目を合わせる。