第30章 涙雨
駆けつけたカカシがナルトを見つけたときには、もう全てが終わっていた。
額当てで隠れていない彼の右目が、哀しそうに揺れた。
倒れているナルトの傍には、額当てが落ちている。
忍犬パックンの嗅覚で、それがサスケの物だとわかった。
額当てに付いた”木ノ葉の忍”の証を拒絶する傷跡を見て、カカシは深く重い息を吐いた。
「間にあわなくて…すまなかったな…。ナルト、お前のことだから必死だったんだろう」
そしてもう既に姿のないサスケを思う。
運命とは残酷なものだ。
木ノ葉の里を作った偉大な二人が遠い昔に闘いあったこの場所。
その爪跡として川が出来たと云われている。
この流れを見ていると、まるで永遠に止まることなく続いていく戦いを見ているようだと、カカシは思う。
滝を挟んで並ぶ巨大な像のこの二人の運命と同じように。
ナルトとサスケ、二人の命がある限り……
カカシが川を見ていると、パックンの鼻がヒクヒクと動いた。
「カカシ、もう少し奥の方に…これはリエの匂いじゃ!」
カカシは意識のないナルトを抱え、匂いを追尾するパックンの後を追う。
するとそこには、雨に濡れたリエの後姿があった。
「リエ……」
カカシが声をかけても、リエは何の反応も示さなかった。
肩に手を置くと、ようやくゆっくりとこちらを向いた。
その瞳に、光はない。
((……リエでも…止められなかったか……))
この雨でサスケの匂いも消え、忍犬でももう追うことは出来ない。
いや、サクラでもナルトでも、リエでさえも止められなかったのなら……もう無駄なのだろう。
「リエ……帰ろう」
「……帰ります」
呟くように言われたその言葉に、生気は感じられない。
「……でも、ひとりで大丈夫です。大丈夫……私は、ひとりでも、帰れます」
明らかに様子のおかしいリエの言葉通りには到底受け取れなかったが、しかしナルトもすぐ病院に運ばなければならない状態だ。
一緒に付いて来るよう説得はしてみたものの、リエは首を横に振るばかり。
仕方なしに、カカシは相棒のパックンをリエに就け、ナルトを背負い先に木ノ葉の里へ向かった。