第30章 涙雨
『好きな人が傍にいなくて幸せになれるはずないじゃない!』
里を出るときにサクラに言われた言葉が脳裏を過ぎる。
オレを忘れてしまえばいい。
そう口にしても、本心は間逆だ。
ずっと思っていてほしい。
好きでいてほしい。
待っていてほしい。
リエの悲痛の願いを聞いて大きく揺らいだ心。
本当は…自分だって、リエと離れたくなんてない。
でも、この答えは変えられない。
何も出来ない自分が…リエを守ることも出来ない、弱い自分が許せない。
イタチに見せられた幻術が、あのときからずっと付き纏っている。
リエが傷付けられるのは、自分が傷付けられるのなんかよりずっと痛くて。
リエを失う恐怖、絶望、負の感情の全てが、”あの日”とも比べられない程の地獄だった。
絶対に、絶対に彼女だけは失いたくない。
力があれば、誰の手からもリエを守れる。
その力を、大蛇丸から得られる。
力を手に入れて、強くなって、イタチを…リエを危険に晒す奴を、片っ端から片付ける。
その為に、誰になんと言われても里を出ると決めた。
リエを失わない為に、リエと離れることを決めた。
自分が傍にいなくても、今の自分よりも強い奴は木ノ葉にはいて、リエはそこにいればとりあえずは安全なはずだから。
隣にいて守れないより、離れていても守れる方が、ずっといい。
しかしこのままリエを冷たく突き放したら、彼女はもっと、深く傷付くだろう。
逆の立場だったら……それを考えられないわけじゃない。
これはオレのエゴだ。
里抜けはイタチへの復讐の為だと思っているであろうリエに、里を出る本当の理由は言えない。
それを言ったら、リエはもっと傷付くから。
きっと自分自身を責めるから。
「一緒に来い」という言葉を飲み込む為に、サスケはグッと奥歯を噛み締めた。
それをリエは望んでいない。
たとえ望んでいたとしても、リエを大蛇丸の元へ連れて行くことは出来ない。
あの男は危険すぎる。
リエが闇に染まる道は決して歩ませてはいけない。
リエには……
ずっと、オレにとっての光であってほしいから。