第30章 涙雨
「……オレは……」
絞り出した言葉が、震えてないことをサスケは祈った。
「…オレにはどうしても、力が必要なんだ。目的がある、から…どんなことをしても、どんな手段を使っても、強くならないといけない。だから……ここにはいられない」
今までに出したことのない程、弱々しい声が出た。
「里には仲間がいるんだろ。オレがいなくたって、お前は独りじゃないさ。オレのことはもう ……忘れろ」
そういうことではないことなんか、わかっている。
わかっていて、あえて口にする。
本当に酷い奴だ。
自分は知ってるはずなのに。
愛する者を失ったときの感情を。
仲間がいようが、友がいようが、その心の穴が埋められないことを。
”孤独”がいかに、地獄なのかを。
それなのに、リエをそこに突き落とそうとしてる。
自分が捨てた”仲間”という言葉を使って、リエの気持ちを無視してまで。
でも、これでいい。
オレは、いつリエの元へ戻れるかもわからない、闇の道を進むのだから。
リエの痛みを感じて傷付くな。
そんな権利すら、オレにはないんだ。
「……忘れろって言うなら…どうしてあんな言葉残したの…?」
震える声で指すそれは、二人で撮った写真の裏に残した、彼女へのメッセージのことだろう。
正直、こんなに早くあのメッセージに気付くとは思っていなかった。
「”お前の幸せだけを祈ってる…どこにいても、傍にいられなくても、ずっと”……なにそれ?そんなの…そんなの全然嬉しくない!サスケは何もわかってない!」
彼女に対する罪悪感を少しでも減らしたくて残した一言。
……心からの想い。
「今まで色々あって、悲しいこともいっぱいあったけど……サスケがずっと隣にいてくれたから…だから私はずっと笑っていられた…幸せ、だったんだよ…?」
こんな状況でなければ、飛び上がりたいほど嬉しい言葉なのに。
愛する人がここまで言ってくれているのに、自分は彼女を傷つける一方だ。
「……サスケがいないと……幸せになんて、なれないよ……」
サスケの肩で、リエが泣く。
止まない雨が二人を濡らし続けた。