第30章 涙雨
「……違わないよ」
振り払われたその手で、リエはもう一度サスケの腕を掴んだ。
「私は…サスケが思ってるほど綺麗な人間じゃない。嫉妬もするし、羨むし、怒りもするし憎むことだってある。サスケが言うように黒いものがないなんてこと、ない。それに加えて…臆病で、弱い人間なんだよ」
それが小刻みに震えていたことは、すぐに気付いた。
「私、今までサスケのこと、サスケのすること、強く否定したことなかったよね。なんでかわかる?優しさなんかじゃない。サスケに嫌われたくなかったから、違うと思ってもずっと言えなかっただけ…」
溜めていたものを吐き出すように、リエは言葉を続ける。
「本当は、サスケに復讐なんてしてほしくないって、ずっと思ってた。イタチは血の繋がったお兄さんなのに、サスケだってあんなに大好きだったのに、憎んで生きるなんてやめてほしいって…忘れろとは言えないけど、でもずっとそう思ってた。
でも、サスケは頑固だから私の気持ちを伝えたところで何も変わらないって自分に言い訳して、本当の気持ちをずっと黙って、いつかきっとサスケもわかってくれるなんて都合のいいことばっかり考えて、現実から目を逸らし続けた。ただサスケに拒絶されるのが怖かっただけのくせに。サスケのイタチへの思いを否定して、お前なんかいらないって、そう言われるのが怖くて…あなたを失うことが何より怖くて …!」
止まらない思いは、リエの本心であることは明らかだった。
イタチに対する思いが真逆なことはわかっていたけれど、心の内にそんな不安を抱えていたなんて、初めて知った。
「あなたまで失いたくないの!お願いサスケ!私の、最初で最後の我がままだから…!」
リエは震える声で、しかし一言一言ハッキリと紡ぐ。
「行かないで!私を…独りにしないで!!」
泣き叫ぶように言われたそれは、サスケにとって一番聞きたくなかった言葉だった。
”あの日”以来、恐れていた孤独から自分を救ってくれたのはリエで。
泣き言なんて一度も言わないで、いつも笑っていたリエの心からの叫びが………胸を抉る。
苦渋の決断が、崩されそうになる。
リエといれば、リエの顔を見れば、こうなると思ったから
だから、黙って出てきたのに。