第30章 涙雨
沈黙を破ったのは、リエだった。
「どうして…何も言ってくれなかったの?ずっと一人で悩んで、苦しんでたんだよね?…言ったところで、私じゃサスケの力になれないから?私がいると、復讐の邪魔になるから?だから黙って…行こうとしたの?」
その問いに、サスケは何も答えなかった。
いや、言えなかった。
グッと腕を掴まれる。
リエの中に渦巻いているであろう悲しみと怒りが、その力の強さで感じ取れた。
「サスケ、帰ろう?里には、サスケのこと心配してくれる、思ってくれる仲間がいる。私達が一度は失った、帰る場所だってあるんだよ。自分から独りになろうとしないで」
口調は穏やかだったが、リエの必死さが伝わって来て、息がつまる。
「サスケが里を出るって、簡単に決めたわけじゃないことくらいわかるけど、でも…!」
「わかっているなら!」
リエの言葉をこれ以上聞きたくなくて、サスケは大声でそれを遮った。
「わかっているなら何も言うな。オレはもう決めたんだ!」
掴まれていた手をバッと振り払ったときには、胸が痛んだ。
彼女を傷つけている自分がそれくらいの痛みで許されるなんて、思ってはいないけれど。
リエに背を向けていてよかった。
彼女の傷ついた顔は、もう見たくない。
「…腹の中のドス黒いものなんか、お前にはないだろ。オレとお前は違う。オレには何を犠牲にしてもやり遂げなければならないことがあるんだ。オレは、オレの道を行く。これから歩む道に……お前は必要ない」
それでも、下手に優しくなんかしてはいけない。
未練を残すような振る舞いは、返ってリエを傷付ける。
出来るだけ冷たく突き放せ。
リエが闇の道に、迷い込まないように。