第30章 涙雨
力を使いすぎて、体が上手く動かせない。
ゆっくり立ち上がり、ふらつく足取りでその場を後にする。
ナルトの姿はもう、振り返らなかった。
サスケは歩きながら、思い出していた。
誰よりも認めてもらいたかった父のこと。
時には厳しかったが優しかった母のこと。
憎きイタチのこと。
そして…誰よりも愛するリエのこと。
いつでも自分の傍にいてくれたリエ。
誰よりも自分をわかってくれていた。
誰よりも自分を思ってくれていた。
そんなリエの存在に、いつも救われていた。
それなのに、自分はリエを置いてこうして出て来た。
リエへの甘えが、リエを失うことへの恐怖が、自分の弱さの根源だと気付いたから。
……こんなの、ずっと支えてくれていたリエに対する裏切りでしかない。
わかっている。そんなことは、痛いほどに。
((……リエは何も悪くないのに……))
数えきれないくらい見ていた笑顔よりも、出て来る前に見た不安そうな、悲しそうなリエの顔が頭から離れない。
きっとこれからも、思い出すのはいつもこの顔だ。
これは、自分への罰だ。
自分の勝手でリエを傷つけることへの罰。
愛する彼女一人も守れない、愚かで弱い自分への、罰。
サスケの足は闇が続く暗い森へ向かう。
しかし…
「サスケ!!」
一瞬の突風が吹いた瞬間、この場にあってはならない声が耳に届いた。
聞き慣れた、綺麗なソプラノ。
間違いなく、愛しい人がそこにいる。
思わず歩みを止めたものの、サスケは振り向くことが出来なかった。
「サスケ……」
手を伸ばせば触れられるくらいの距離まで、リエが歩み寄ってくるのがわかった。
来るなとは言えなかった。
沈黙が続く。
全身を打つ雨が、痛かった。