第29章 音の誘い
ベッドですやすやと眠るリエの枕元に腰掛け、その髪を己の指に絡ませた。
彼女の柔らかい髪も長いまつ毛も、瞳も唇も身体も、その全てが愛おしい。
一族を殺したイタチへの復讐を果たし、全てに決着をつけてリエと共に一族を復興させること。
それが自分の夢だった。
しかしあの音忍にも敵わないような今の自分では、イタチを殺すことはおろか、彼女を守ることさえ、到底出来ない。
『仲間とぬくぬく忍者ごっこじゃ、お前は腐る一方だぜ』
超えられない壁を壊したくて
でも、大切な人を手離す決断も出来なくて
色んな思いが交錯して、悩みに悩んで決めた。
里を抜け、大蛇丸の元へ行く。
リエを置いて……
独りで。
その選択が、リエを悲しませることになるのはわかっているのに。
((…本当に自分勝手だな、オレは))
誰よりも大切な彼女を、自分の行動で傷つけるなんて本末転倒で笑ってしまう。
それでも、自分が弱いせいでリエを永遠に失うことになるよりもマシだ。
傍にいて守れないより、離れていても守れるほうが、ずっといい。
あの忌まわしい幻術を、現実にしてはいけない。
力を手に入れて、誰よりも強くなって、イタチを殺す。
復讐を遂げ、誰の手からもリエを守れるようになるそのときまで
リエはこんな勝手なオレを待っていてくれるだろうか?
それとも………。
眠るリエを、このまま連れ去ってしまいたかった。
もしかしたら「ついてきてくれ」と言えば、一緒に来るという選択をするかもしれない。
しかし大蛇丸の元へ行けば、確実に彼女は闇に染まる。
自分はどうなっても構わないが、リエがそうなることだけはさせたくなかった。
リエにはずっと光の中にいてほしい。
太陽のように明るく、見るだけで幸せになれるあの笑顔を失くしてほしくはないから。
あの笑顔が、自分は何よりも好きだから。
「……世界中の誰より、お前を愛している」
最後にもう一度長いキスを落とし、リエの寝息を名残惜しげに聞きながら
サスケは、そっとドアを閉めた。