第29章 音の誘い
足音が近づいて来るのが耳に届き、リエは慌てて顔を上げた。
足音が止まり、ゆっくりと玄関の扉が開く。
リエが待ち望んだ彼がそこにいた。
「サスケ!よかった…!」
リエが駆け寄ると、彼の身体が傷だらけなことに気付いた。
ナルトとの戦いで出来たものではない。
もちろん、カカシでもないだろう。
あの後、誰かに襲われでもしたのだろうか。
「どうしたのこの怪我?!待って、すぐ治療を……」
しかしサスケはそれに答えることもなく、俯き無言のまま彼女の横をすり抜け、自室に向っていく。
今までこんなことはなかった。
どんなに気が立っていようと、落ち込んでいようと、リエの前ではそれを見せようとしなかったし、言葉をかければ短くても返してくれた。
それなのに今は……
二人の間に何か大きな壁があるようだ。
「……サスケ、待って!」
このままではいけないと、リエが慌てて自室に入ったサスケの手を掴むと、
振り向き様にそのまま彼に引っ張られ、突然キスをされた。
今までにない、乱暴なキス。
噛み付くように何度も何度も口付けられる。
息も整わぬうちにサスケがリエの首元に顔を埋め、彼女の服を剥ぎ取っていく。
「ちょっと、サスケ…まっ……」
待ってと、リエは声をかけようとした。
しかし目の前のサスケを見て、言葉が出なくなってしまった。
どこか寂しげで、辛そうで、
今にも泣き出してしまいそうな表情。
いつも力強く前を見据える瞳には、影が落ちている。
“あのとき”のサスケだった。
全てを失い、打ちひしがれていたあのときと、同じ。
((サスケ……))
いつもよりいささか乱暴なサスケを、リエは受け入れた。
そして、彼を出来るだけ優しく抱き締める。
一人で悩まないで。
苦しみを抱え込まないで。
私があなたの傍にいるから。
あなたは独りじゃないから。
私は、あなたを心から愛している。
その思いが、彼に届くように。