第29章 音の誘い
窓から見上げた空には綺麗な満月が浮かんでいる。
今日の月はとても美しく、そして儚く見えた。
イタチが一族を殺害し、里を抜けた日も満月だった。
忘れもしない、たくさんの大事なものが失われた、あの辛く悲しい日…。
あのときのような、妙な胸騒ぎがする。
この満月が、イタチだけでなく
サスケまでをも連れて行ってしまうような気がして、不安でならない。
リエは机の上に飾られた写真を手に取った。
サスケと恋人という関係になってから、初めて撮った写真。
あれからそんなに時間もたっていないはずなのに、なんだかとても懐かしい。
それほどサスケの幸せそうな笑顔は、最近見ていない。
日が落ち夜が更けても未だ戻ってこないサスケを思い、リエはため息を吐いた。
「……サスケ……早く帰ってきて……」
呟いた言葉は掠れていた。
不安からか、身体の振るえが止まらない。
こんなの、サスケ依存症だ。
それほどまでに、リエにとってサスケはなくてはならない存在なのだ。
目が覚めてから、サスケはリエの名前を呼ぼうともしない。
顔を見ても目を逸らす。
まるで、リエを拒絶するような反応だった。
もしもこのまま帰ってこなかったら……
そんな不安を振り払うように、神に祈るように手を組み玄関の壁に凭れかかり彼の帰りを待つ。
時を刻む時計の音が、嫌に耳についた。