第29章 音の誘い
己の膝を抱え、サスケは顔を伏せた。
しかし閉じた瞼の裏に甦るイタチの紅い眼に、身体が震え慌てて目を開く。
イタチに見せられた幻術は、きっと一生忘れることは出来ない。
ひどい幻術だった。
一族が殺された”あの日”が、目の前で再現された。
それだけでも辛かったというのに…
あろうことか、リエが目の前で幾度も傷つけられる様を見せつけられたのだ。
「助けて」と、そう何度も乞う言葉を聞きながらも、自分は動くことすら出来なかった。
何も出来ずに、ただ、目の前で愛する人が傷つき倒れていく。
声が枯れるほど叫び続け、どれだけ涙を流しても
自分は、何も出来ない。
苦しくて、辛くて
幻術だとわかっていても、気が狂うところだった。
寧ろ、狂った方が楽だ。
ーーーこんな地獄があるだろうか。
目を閉じることさえ、イタチに阻まれる。
幻術であの悲惨な姿を見せられてから、あのときの姿が頭から離れなくて、失うのが怖くて、現実のリエの姿でさえもまともに見られなかった。
本当は、強く抱きしめて安心したかったのに。
今のままでは、今の自分の力では、あの幻術が現実に起こってもおかしくはないのだ。
自分の中に大きくある、イタチに対する復讐心。
それよりももっと大きな、リエを失う恐怖。
イタチどころか、ナルトにさえも劣る今の自分では
このまま彼女の傍にいても、自分より格上の相手からリエを守れるわけがない。
例え憎しみを失くして、このまま平穏にリエの傍にいられたとしても、きっとずっとこの恐怖に苛まれる。
オレが……弱いせいで。
「…チクショウ………チクショウ!!」
自分の無力さが悔しくて
腹が立って
悲しくて
情けなかった。
強くなりたい。
何者にも劣らない、強さが欲しい。
そんなサスケの前に、四人の忍が姿を現した。