第29章 音の誘い
一人残されたサスケはずるりと木にもたれるように座り込むと、その場を動けなかった。
カカシの言葉が、サスケの頭の中を反芻していた。
ナルトやサクラ、リエとこなした任務の数々が頭に浮かんでは消えていく。
くだらなくも、笑顔が溢れていた日々。
楽しそうに笑うリエを見て、自分の口元にも笑みが浮かんだ。
そして、リエと過ごした幸せな日々の、たくさんの思い出が蘇る。
独りにされたあの日から、リエはいつだって傍にいた。
思いを同じくしたあの日から、いつだって愛を与えてくれた。
彼女の笑顔で、彼女の温もりで、何度も救われた。
誰よりもリエのことが大切だということは幼い頃から変わらない。
いや、日を増すごとに、その思いは強くなる。
リエさえいれば、それでいい。
何もいらない。
ずっと一緒にいられれば、それで……
リエを愛するあまり、そんなことを思ったことだってあった。
けれど――
どうしても許せないんだ。
大事なものを奪っていったアイツが。
自分達を裏切ったアイツが。
何よりも、リエを深く悲しませたアイツが。
『お前は弱い。足りないからだ。憎しみが…』
あの言葉が頭から離れない。
『リエの優しさに甘え溺れているお前など、俺の足元にも及ばない。リエを守る力さえ、お前にはない』
ぎり、とサスケは歯を食いしばる。
中忍試験の二次試験でボロボロに傷ついたリエの姿は、鮮明に覚えている。
あのとき、あの可愛らしい顔が殴られ傷つけられ、犯される寸前だったのだ。
自分が守ってやれなかったせいで怖い思いをさせてしまったのに、それでもリエは何も責めなかった。
それどころか、彼女はずっと自分を心配してくれていた。
悔しくて、憎くて、仕方なかった。
何も出来なかった自分が、口だけの自分が。
弱い、自分が。