第29章 音の誘い
「それ以前からだって、お前の隣にはずっとリエがいたじゃないか。お前が辛く苦しんでいるときも、泣きたいときも…そうだろう?それがどんなに幸せなことか、わからないわけじゃないだろ。
リエがどんなにお前を愛しているかなんて、傍から見ている俺にだってわかる。お前だって、リエと気持ちは同じだろ。
そんなに大切な子がずっと隣にいてくれてるってのに、復讐なんてものに囚われすぎだ。リエは、お前に復讐してほしいなんてこれっぽっちも思っちゃいないよ。
お前には幸せになれるチャンスはいくらでもあるだろうに、それを自分で潰してどうする」
カカシの言葉に、サスケの心がズキリと痛んだ。
本当は、わかっていた。
自分が復讐心を出す度に、リエがどんなに悲痛な顔をしていたのか。
何故リエがそんな顔をするのか
理由はわかっていたけど、認めたくなかった。
……リエは、アイツを恨んでなんかいない。
きっとそれは、目の前で家族を殺されたわけじゃないから。
殺意を向けられたわけじゃないから。
裏切りを決定づける言葉を直接言われたわけではないからだ。
自分とは、違う。
そう思って、リエの気持ちに気付かないフリをした。
悪いのは全部アイツだ。
オレとリエをずっと苦しめているのは、アイツの…イタチのせいだ。
アイツに復讐をしない限り、この手で殺さない限り、きっとこの心は晴れない。
でも……
リエには、笑っていてほしい。
黙って俯いたサスケに、カカシは静かに言葉を続ける。
「……失っているからこそわかる。千鳥は、お前に大切なものがあるからこそ与えた力だ。その力は、仲間に向けるものでも復讐の為に使うものでもない。何の為に使う力か、お前ならわかっているはずだ。よく考えろ」
そう言い終えると鉄鋼線を弛ませ、カカシは瞬身で去っていった。