第28章 すれ違う心
「でもよかった。サスケくんの怪我がたいしたことなくて。ナルトの奴も安心してたわ。そうだサスケくん、お腹空いたでしょ。私何か買ってくるけど……」
サクラが色々話しかけて来ていたようだが、その声は今のサスケの耳には全く入っていなかった。
イタチにとってサスケとの戦いなど、相手を”してあげた”だけに過ぎない。
誰の目にも明らかな、イタチとの絶望的な程の実力差。
イタチは、弱い自分のことなど眼中にもない。
理由はわからないが、イタチが狙うのはナルト。
ナルトは、とてつもない力を秘めていた。
砂の我愛羅……あいつはとんでもない化け物だったのに、それを倒した。
自分はあのときも、何も出来なかったというのに。
((……苛々する))
病院のベッドから天井を見上げる。
サクラが出て行ってからも、嫌に響いて聞こえる外で遊ぶ子供達の笑い声、廊下を歩く人の足音…全てが癪に障った。
コンコンと軽めのノックの後、病室の扉が開く。
顔を覗かせたのは、サスケの愛しの彼女である。
「…サスケ、体調どう?」
「……リエ……!」
彼女を前に、“あの記憶”が蘇り身体が震えた。
そう、イタチが見せた…あの幻術。
目覚めるまで何度も何度も繰り返し見せられた、気が狂いそうになるほどの、ひどい幻術だった。
その合間に何度か見た夢に、幸せそうに笑うリエがいた。
あれのおかげで、サスケは今なんとか正気でいられている。
彼女の無事な姿に安心しつつも、思わずサスケはふいと目を逸らしてしまった。
正直今、リエと合わせる顔がない。
「…私、来ない方がよかったかな?」
何かを悟ったようなリエの言葉に、サスケはビクリと震える。
「……ごめんねサスケ……それでも私は、あなたの傍にいたいんだ」
そう言って、リエは眉を下げた。
彼女にこんな顔をさせてしまった自分にも腹が立つ。
((オレがもっと強ければ…力があれば……!リエにこんな思いさせなくてすむのに……!))
サスケはぎゅっと己の拳を握り締めた。
今の自分には、リエを抱きしめる資格もない。