第22章 封印されしもの
『この子はリエ、俺の大切な娘なんだ』
父親の声が脳裏をよぎった。
それを皮切りに、ぼんやりとした風景がリエの頭の中に浮かんでくる。
家の縁側で寛ぐ父親。
その膝に座る、幼い自分。
そして目の前には、水色がかった白の毛を持つ、大きな虎がいる。
間違いようがない。神獣だ。
【……で?】
『で、って?可愛いだろ?』
【この神聖なる我を呼び出しておいて、用件はそれだけか?】
『そうだけど。遅くなったけど娘自慢…あ、いや、娘の紹介。もしも俺がいない間にこの子に危険が迫ったりでもしたら、お前に守ってもらわないといけないだろ?』
【なぜ我が……我は契約事以外の余計な干渉はせん】
『とか言って、お前俺の頼みなら結構聞いてくれるじゃん』
【何を適当なことを!】
『まぁそうカリカリすんなよ。ほらリエちゃん、こいつ怖いお顔の虎さんだけど本当は優しい虎さんだからね〜』
『とらたん?』
『聞いたか風牙?!とらたん、だって!かーわいい〜!』
【…………阿呆め】
満面の笑みを浮かべる父親と、呆れたように目を細める大きな虎。
そして彼らを見上げる自分は、楽しそうに笑っている。
((この光景…知ってる))
温かい光。
柔らかな風。
優しい、声。
それらは全て、リエの記憶の中のものだ。
((そうだ…お父さんが呼んでいた、彼の名前は ……))
「……ふう…が…?」
リエの呟きに、神獣は一瞬目を見張った。