第21章 隠された事実
((やめて…もうやめてよ!!))
リエが何をしても、何を言っても、目の前の二人には届かない。
今ここにいるのに、声を上げているのに、誰にも気付かれない。
まるで、最初から存在しない者のように。
返り討ちに遭い、血に塗れる女性。
白黒の世界に、赤い色だけが増えていく。
クナイの扱いや戦い方を見ていてわかる。
彼女は戦闘に慣れていない。
くノ一かどうかすら危ういほどに。
対して、相手は装いからして暗部。
最初から勝てる勝負ではなかった。
それでも彼女は何度も立ち上がり、力のない手でクナイを男に向けた。
「…痛い目を見ても気は変わらないか」
「…言ったはずだよ…利用されるなんざ、まっぴらだって…!」
「……仕方あるまい。手に入らぬならば、消せとの命だ。
………死ね」
面の男は無感情にそう言うと
瞬時に女性の懐に入り、
彼女の身体を短刀で貫いた。
((ーーーーーっ!!))
言葉にならない悲鳴が、リエの口をつく。
男はそのまま短刀を引き抜くと、女性の身体を少女がいる方へと蹴り飛ばした。
大量の血を吐きながら、それでも彼女は、泣きながら駆け寄って来た少女に力なく微笑みを向ける。
残された力で飛んできたクナイから少女を守る盾となり、女性は震える手で泣きじゃくる少女の腕を掴んだ。
「…こっちに…きちゃダメよ…」
溢れる血のせいか、呼吸器官をやられたのか
声はほとんど出ていない。
「いきなさい」
掠れる声で、それでもしっかりとそう言葉にした後
掴んでいた腕の力がするりと抜け
女性は地に倒れた。
ゾクリと、リエの背中に氷でもあてられたかのような冷たいものが走る。
((私…しってる…))
頭がガンガンと痛み出した。
((同じ光景を…見たことがある))
あれは……波の国に行くときに。
いや、それよりももっと前に。
((…そうだ…あれは……私の……))
「おかあ、さん…?」
呆然と佇む、母親の血で赤く色付いた少女は
幼い頃の、自分だ。