第2章 第一章「ニホンの忌まわしき存在」
「…ゾロさん、休んでいなくて平気ですか?」
「あぁ。酔いも覚めた。少し風に当たりたくなってな」
「そうですか」
波の音、涼しい風が心地よい。
とゾロはなにを話すでもないが、決して居心地の悪い沈黙ではなかった。
「楽しかったか?」
「宴、ですか?」
「あぁ」
「とても。本当に、心から、楽しかったです…私……っ」
急に涙が溢れてくる。ゾロは突然が泣き出したのに驚き、少々慌てた。そっと頭を撫でてやるが、の涙も嗚咽も止まらない。
「おいおい、どうしたんだよ」
「ごめんなさい…っ…私、こんなに楽しい思い出来るなんて思ってなくて…このまま…孤独で寂しいまま死んで行くんだって思ってて…っ…」
「…」
「私、夢を見ている間は幸せだったんです。皆さんと一緒に冒険しているような、そんな夢を見ている時が。でも、夢が覚めたらそこには私ひとりしかいなくて、楽しい気持ちもすぐに冷めて…長い一日が始まってしまって…」
ゾロはの頭を撫でながら、なにも言わず話を聞いてやっている。
やがては涙を拭うと、ゾロに微笑みかけた。
「あなたに出会えてよかった」
「はっ?」
「皆さんに出会えて、よかった…」
「…あぁ、そういう事か」
「え?」
「なんでもねぇ…そうだ」
「はい?」
「飲み比べ。俺が負けちまったからな。言う事ひとつなんでも聞いてやる。何がいい」
「…本当になんでもいいんですか?」
「男に二言はねぇよ」
「じゃあ……」
はうーん、と顎に手を当ててしばらく悩んだ後、ゾロに向けて両腕を広げた。
「ぎゅ、って抱きしめてもらってもいいですか?」
「あぁぁ!?」
「なんでも、でしょ?」
悪戯っぽいの笑顔に、ゾロはなにも言えず、乱暴にを抱きしめた。
「あったかいです」
「うるせぇ」
は安心感を。ゾロは今までに感じた事のない胸の高鳴りと緊張を覚えていた。
屋敷のバルコニーでは、二つの影がしばらくの間、重なっていた。
第一章 完