第2章 口実 ~手塚国光~
「どちらもそれほど違いがないような気がするな…」
試し書きの紙に、二つ並んだ"手塚国光"の文字。
手塚くんは真剣な目で二つのシャーペンを見比べている。
「宮脇はどっちにするのか決まったのか?」
「え?」
あれ、私、シャーペン買うって言ったっけ?
あ、でもちょっと待てよ…。
これって、手塚くんとお揃いにするチャンスじゃない?!
うわ!!
絶対買わなくちゃ!!
「えぇっと、まだ、決めてないんだけど…色は、水色にしようかなぁと思ってるよ」
手塚くんが手にしている二つのシャーペンをすばやく盗み見る。
どちらも水色のグリップだった。
「そうか。同じだな。俺も色は水色にしようかと思っている」
(うん、そうでしょうね!!)
私の心の内を知ってか知らずか。
手塚くんは偶然だな、という風に言った。
「宮脇は試し書きしたのか?」
「う、うぅん、まだ…」
私も書いてみるよ、と、見本品を握る。
何て書こうか。
"手塚国光"の文字が目に入る。
私は、少し考えて。
その隣に、"宮脇琴子"と二度書いた。
(この紙、後で絶対持って帰る…!)
「どうだ?」
「うぅん…どっちも書きやすいね」
正直、どっちだって良いんだけど。
こういうときは、値段の安い方がいいよね。
おこづかい、大事。
「こっち、かな。ちょっとだけ、安いから」
缶ジュースが一本飲めるくらいだけど、と言うと、手塚くんはそうか、と言って微笑んだ。
……え、微笑んだ?!
でも、次の瞬間にはまたいつものクールな顔。
気のせいだったのかな。
「それじゃ、俺もこれにしよう」
そう言って、手塚くんは私に水色のシャーペンを渡してくれ、自分も同じものを手に取った。
(よっしゃ!お揃い!)
思わず小さくガッツポーズしてしまった。
「レジはあっちだね」
ニヤけた顔を見せるわけにもいかなくて、私はレジへ先立って歩く。
だから、後ろを歩く手塚くんの様子を知ることはなかった。
「…お揃いだな」
小さく呟かれた言葉も。
手塚くんの耳が真っ赤になっていたことも。
(乾によると、宮脇の好きな色は水色と緑色…)
そんなことを、考えていたことも。
End