第2章 口実 ~手塚国光~
「あ…」
「…宮脇」
ウィンドウショッピングの後、立ち寄った文房具のシャーペンコーナー。
そこで手塚くんと会った。
「…えと、シャーペン、買いにきたの?」
「あぁ…。折れにくいものが発売されていると聞いて」
手塚くんはにこりともしないけど、ちゃんと私の目を見て話してくれる。
眼鏡の奥のクールな眼差しに、私の胸は高鳴った。
(学校以外で話せるなんて、夢みたい…)
同じクラスだけど、席が離れているし、共通の趣味もないから、話しかけることもできない。
手塚くん以外の男子なら、別に平気だけど。
同い年なのに、おとなっぽくて、とても落ち着いてて。
近寄りがたい。
目前のチャンスを逃さないよう、私は神経を張り巡らせた。
「なんか、何種類か出てるみたいだよ。絶対折れないってウリで」
「そうなのか?」
「うん。あの、どこかの動画で見たんだけどね」
たまに見るとシャーペン語りをしているは○めしゃちょーの動画。
きっと手塚くんは見る暇なんかないだろうけど。
「これ、か?」
「あ、そうだよ。あとこっちもだね」
「どちらの方がいいんだ?」
「うぅーん…どっちだろう…?」
どっちがいいか、はそれはやっぱり個人の好みなわけで。
二種類のパッケージを手にして、手塚くんはじっと見比べている。
「これはお試しで使えるよ」
はい、と見本品を手渡す。
「あぁ…すまない」
手塚くんはそう言って受け取ると、試し書きの紙に迷わず"手塚国光"と書いた。
「えっ」
思わず声が出てしまった私に、手塚くんはなんだろう、と視線をよこす。
いや、だって、普通試し書きってさ…"あ"とかじゃない?
現に、他の人の試し書きはほとんどが"あ"、もしくはクルクルとした螺旋だ。
「ふ、ふふっ」
やばい、ちょっと…ちょっと面白い、っていうか普通に面白い。
小さく笑い出した私。
手塚くんは困惑した顔で私を見る。
「なんだ、何がおかしいんだ?」
「いや、だって…試し書きでフルネーム書く人見たことないっ…」
なおも笑う私。
「そうなのか? しかし、名前が書きやすいのが一番だろう?」
「そ、そうだけど…っ」
なにこの人、可愛い…!
すっごくクールだと思ってたけど、こんなところもあるんだ。
そんな一面を見ることができて、私はとても嬉しかった。