第5章 ラーメンのお供に ~海堂薫~
「海堂くん、何か落ちた…あ」
「ん…?」
大学の教室で、たまたま座った席のすぐ前に海堂くんがいた。
授業終了のチャイムが鳴って、立ち上がった海堂くんの鞄から、ポトリと何かのカードが零れ落ちたのが見えて、私は声をかけた。
机の上を滑ったそのカードは、後一つでスタンプが満杯になるようだった。
「それ…駅の反対側にあるラーメン屋さんのカードだよね?」
「ああ」
それがどうかしたのか?と海堂くんが視線で問いかけてくる。
「んー、いいなぁ、と思って」
「いいなぁ?」
「うん」
なんでだ?と再び海堂くんの目が私を見る。
うん、やっぱり女子がひそひそ言ってるだけあるなぁ。
目つきは悪いけど、整った顔してる。
海堂くんとは高校のときから同じ学校だったけど、大学に入って同じ学部になったことで初めて話すようになった。
「男の子って、ラーメン屋さん一人で行けるのが羨ましいな、って思って」
しかも、そのカードのラーメン屋さんは今流行りのこってり系ラーメンで、お昼時には大学生が列を作る。
その列は男子ばかりか、男女のペアくらいのもの。
残念ながら女子が一人で並んでいるのは見たことが無い。
「女子がお一人様するには、ちょっと敷居が高いかな…」
「そうか?」
「うん。隣にカフェがあるじゃない? 女の子は皆そっちに行くから…。海堂くんは、そのカフェに一人で並ぶ勇気ある?」
「……」
「ないでしょ? それと同じ感じかな」
いいな、私、まだ一回もそのお店行ったことないんだよ、と言えば、海堂くんはまた私をじっと見た。
「あ、友達と行かないのかって? うーん、私の友達、パスタ派が多くて。ラーメン屋さん、誘っても行ってくれないの。まぁ私はパスタでもいいから、別にいいんだけどね」
「宮脇はラーメンが好きなのか?」
「うん。一人で入れるお店もいくつかあるんだけどね」
そこまで言って、私はふと思いついた。
「ねぇ。今日はもう授業終わり?」
「いや。四限だけある」
「じゃあさ、ラーメン屋さんに一緒に行ってくれない? 今からお昼でしょ?」
「…今は混んでるから、時間ズラして行く」
「やった! 私は授業これでお仕舞いだから、時間は全然大丈夫」