第3章 雨降り ~海堂薫~
差し出した手を、薫くんが握り返してくれる。
私たちは教室を出て、生徒用玄関まで手を繋いで歩く。
「どこか寄り道する?」
「ミ○ノ…」
「ふふ、いいよ。じゃあそのあとコロッケ半分こしようね」
雨降りのときの定番コース。
薫くんが差してくれる大きめの傘に入れてもらってスポーツ用品店へ行く。
そのあと、そのお店の向かいにあるお肉屋さんでコロッケを買って、半分こする。
一つ食べちゃうと、夕ご飯が入らなくなるから。
雨の量にもよるけど、薫くんは多少雨が降っててもランニングに行く。
だから、あんまり遅くまで一緒にいられないことも多い。
今もずっと雨の量を気にしている薫くんに、ちょっと哀しくなる。
土砂降りでいて欲しいって、思ってて、ごめんね。
「雨、すごいね」
コロッケを食べ終わり、包み紙をゴミ箱に捨てるときにチラリと横顔を盗み見た。
いつものように空を見てるかと思いきや、目が合った。
そして私を見つめてくる。
案外大きな目。
まつげも長くて、普段は目つきが悪くて怖がられているけれど、実は整った顔をしている。
そんなに見つめられることなんてないから、私はちょっと…いやかなりドキドキしてしまう。
「薫くん…?」
ふと視界が暗くなったと思ったら、唇に柔らかい感触。
「え…」
目を丸くして薫くんを見れば、その顔は真っ赤に染まっていて、すぐに目を逸らされた。
「もう一個…行きたいとこ、あるんスけど…」
「う…うん! 行こう!」
恥ずかしくて、お互い目を合わせないまま。
再び私たちは一つの傘の下、体を寄せて歩き出した。
土砂降りの雨はまだやみそうにない。
お願いだから、できるだけ長く降っていて。
門限ギリギリまでは、二人でいたいから。
いつも薫くんがしているように、私は空を見上げた。
End