第3章 雨降り ~海堂薫~
お昼休みを過ぎたくらいから、雨がぽつぽつ降り出した。
隣の席の乾が窓の外を見てぶつぶつ独り言を言い出す。
「このまま降り続ける確率…97%」
テニス馬鹿な彼のその横顔は、ちょっと寂しそうだった。
朝見た天気予報では、このまま土砂降りになると言ってた気がする。
かわいそうだけど、今日の部活はなし、になるよね。
そう思うと、不謹慎だけど頬が緩んだ。
私の可愛い彼氏はきっとものすごい仏頂面で、あのときみたいに雨雲を睨み付けているだろうけど。
それは今から三年前。
まだ私たちが中学二年生の頃だった。
「雨かよー! ツイてねーなー!ツイてねーよ!」
今日こそマムシと決着つけてやろうと思ったのに!と、桃城くんが薫くんにケンカを売る。
「うるせぇ…」
薫くんは部活ができないことに意気消沈しているようだった。
「このままコートに入ったら、土がえぐれるからね」
今日の部活がなくなったことをテニス部マネージャーである私と一緒に一年生に伝えに来た乾は、じゃあまた明日、と二人に背を向けた。
納得できないような顔をする二人に、私は困ったように笑う。
「コートの状態も悪いし、体濡らしちゃうのも良くないんだし。今日はゆっくり休みなよ」
「はーい。じゃ、宮脇先輩、お疲れ様っス!」
「うん、また明日ね」
いい返事をする桃城くんに手を振った。
ふしゅ…と悔しげに息をつくのは薫くん。
おとなしいけど、体を動かしてないと落ち着かないみたいで、中々可愛い後輩。
雨雲のせいだとじっと空を睨んでいた。
「薫くん」
「琴子先輩…」
「迎えに来ちゃった。今日、部活ないでしょ?」
「……」
すごい仏頂面。
知ってるけど、わかってるけどさ。
私、一応彼女だよね。
部活がないときは決まって私が教室まで迎えに来るから。
だから、あんまりいい顔しない。
テニス馬鹿だから、仕方ないと思ってはいるんだけど。
「たまには構って欲しいなー。こういうときくらい、さ」
ね、と手を差し出す。
こんなときにしか、一緒に下校できない。
デートもできない。
別に、土曜や日曜に二人で過ごせなくたって構わない。
でも、こんな雨の日くらい。